統合失調症を患っている社員の解雇

統合失調症を患った場合に見られる行動とは

統合失調症は、考えや気持ちがまとまらず、不安定な精神状態が続く精神疾患です。その症状には、妄想や幻覚、意欲やコミュニケーション能力の低下、認知機能の低下といった様々な特徴があり、脳の機能障害(神経伝達物質の過剰分泌など)によるものと考えられています。

日本全国で患者数は約80万人で、約100 人に1 人がかかると言われており、決して珍しい病気ではありません。
その発症の原因には、ストレスや遺伝など様々な要因があると考えられており、思春期から30代、40代までに発症することが多いようです。
統合失調症は、薬や精神科リハビリテーションなどの治療によって回復を図ることができますが、再発しやすいことも知られています。

統合失調症を患った社員を解雇することができるか

社員が統合失調症にり患した場合、周囲の人達には理解ができないような理由で感情的になったり、突発的な行動に出たりすることがあります。あるいは、コミュニケーションが苦手になり、出勤が困難になる場合もあります。

そのような統合失調症の症状が見られる社員、例えば、周囲の人が見えないものが見え、聞こえない声が聞こえる、と言っている社員に、会社としては従来通りの仕事を期待することは難しいですし、それどころか、他の従業員の業務を阻害することも考えられます。

そのような場合に、当該社員を解雇することができるでしょうか。

私傷病により、雇用契約で定められた業務を遂行することが困難になった場合、雇用契約上の労働者としての義務を履行できない状況となっている以上、原則として普通解雇事由に該当することとなります。就業規則上は、通常、「精神または身体の障害により業務に堪えられないとき」といった解雇事由が定められることが多いです。

しかし、一方で、労働基準法第19条1項は業務災害による傷病の場合には、その療養のための休業期間及びその後30日間の解雇を制限しています。
統合失調症の原因が明確に業務ではないということが言えればともかく、冒頭に述べたように、ストレスが疾病の一因とも考えられていることからすれば、統合失調症で出勤が困難となったときに解雇することについては、この条項との関係で違法とされるリスクがあります。

また、私傷病の場合に一定期間の休職期間が与えられる休職制度を設けている場合には、その適用によって治療回復の機会を与えることなく解雇とすることは、解雇権濫用として無効となる可能性が非常に高いと考えられます。
休職制度がある場合には、休職期間を設けて治療を受けさせ、復職のための面談や医師の意見を踏まえるなどして、復職の可否を判断することとなります。

就業規則上は、休職期間が満了した時点で復職ができない(不許可)となった場合には、自然退職という扱いが定められるケースと、解雇とするというケースがあります。

休職後自然退職となったことが争われた裁判例には、自然退職を有効としたものもあります。復職が認められるという医師の診断書があっても、それが信用に値するかどうかを判断し、休職開始のときと症状に変化がないということなどを理由として、休職期間満了での復職不許可による退職が有効となりました。

一方で、統合失調症の疑いと診断されて休職を命じられて休職していた労働者が、休職期間満了による自然退職となる旨を告知されたものの、その時点で回復して就労が可能であったと主張して賃金等を請求した事案で、症状の変化や試験出社時の様子などを踏まえると、上司とのコミュニケーションが困難な状況が続いているとして、元のように就労が可能な程度に回復したとは認められず、休職期間満了時の自然退職が有効と判断した事例があります(日本電気事件・東京地判H27.7.29)。

注意すべきは、この事案において会社は、復職が可能かどうかを検討するために数多くの具体的な対策をとっていたことです。復職させることは困難という会社の言い分が裁判において認められることは、裁判所次第ではありますが、それほど簡単なことではないということです。

解雇に関する最高裁判例(日本ヒューレットパッカード事件・最判H24.4.27)

この事件は、従業員が、精神的な不調として被害妄想的な言動を繰り返すようになり、実際には事実として存在しないのに、約3年間にわたり加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを受けているなどと言い始め、そのために、同僚らの嫌がらせにより自らの業務に支障が生じ、自己に関する情報が外部に漏えいされる危険もあると考え、会社に上記の被害に係る事実の調査を依頼したものの納得できる結果が得られず、会社に休職を認めるよう求めたものの認められず出勤を促すなどされたことから、自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ会社に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けたという事案です。

最高裁は、「このような精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想される」とし、「精神科医による健康診断を実施する」こと、さらに「診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき」としました。
その上で、このような対応をせずに、「出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。」として、実質的に解雇を無効としました。

この判例から、解雇にはハードルがあり、事前にリスクを踏まえつつ、具体的な見通しをもって行動する必要があるということがわかります。

社員が統合失調症にかかったら専門家に相談を

統合失調症になった社員の処遇を巡っては、休職制度の適用の仕方、自然退職を適用していいかどうか(復職の可否)など、具体策を提示できる専門家に相談した上で解決を図っていくことが重要だと思います。

当事務所は福岡・天神に拠点を構え、使用者側の労働問題について、交渉、労働審判、訴訟など様々な形で取り組んできた実績があります。
社員が統合失調症にり患し、その社員の処遇に困ったら、お気軽にご相談ください。

 

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

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