パワーハラスメントとは?
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる「優越的な関係を背景とした言動」であって、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「労働者の就業環境が害される」ものを言います。
つまり、「優越的な関係を背景」として、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動で、しかも「労働者の就業環境が害される」という3つの要素を全て満たした言動が、パワーハラスメントにあたります。
「優越的な関係」とは、上司・部下に限らず、抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を言います。部下の上司に対する言動でも、部下が集団で行うような場合には、これに該当することがあります。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」と言えるかどうかは、社会通念に照らし、明らかに業務上の必要性がないとか、又はその態様が相当でない言動を言います。
例えば、業務上の必要性はあるものの表現が不適当、といった場合には、その不適当な程度や、その言動を受けた経緯、その受けた側の地位や経験など、様々な事情を考慮して判断されることになります。
「就業環境が害される」とは、労働者が心身に苦痛を感じさせた結果として就業環境が不快なものとなり、能力発揮に重大な悪影響が生じるような結果となったことを言います。
誰かが不快に感じたというだけでなく、「平均的な感じ方」を基準に判断されます。
会社でよくあるパワハラ事例
パワハラの事例として、①身体的な攻撃(暴行や、物理的な威嚇など)や②精神的な攻撃(侮辱的な言動、執拗な厳しい叱責)などが典型です。
その他にも、③人間関係からの切り離し(集団での無視)や、④過大な要求(達成困難な業務を指示)、⑤過小な要求(簡単すぎて能力に見合わない業務をさせる)、⑥個の侵害(私生活に干渉するなど)といった類型が考えられます。
いずれにせよ、人に対する言動が客観的に「攻撃」の性質を持っていれば足り、意図的であることは必要とされません。
パワハラが企業に与える悪影響
パワハラは、上記の定義に明らかなとおり、少なくとも被害者にとって就業環境を悪化させるものです。しかし、その企業にもたらす影響は、被害者一人の業務効率が悪化するというにとどまりません。
例えば、パワハラが常習的に行われていると、社内には自分も被害者にならないようにしようと萎縮的な効果が生まれます。上司の意見に追従するイエスマンばかりが増え、不正の温床となったり、保守的な空気が蔓延するかもしれません。
あるいは、パワハラの存在を知った優秀な従業員は、そんな職場には早々に愛想が尽きて辞めてしまうかもしれません。
今はSNSでも容易に情報が拡散される時代ですから、社外にパワハラの醜聞が知れて、取引や採用にまで悪影響が及ぶことも考えられます。
更に、一つのパワハラの存在に対する間違った対応は、経営陣に対する不信感にもつながりかねず、企業全体が影響を受けるリスクを負っているというべきです。
パワハラ防止法とは?
2019年6月にパワハラ防止法が成立し、2020年から施行されています(中小企業では2022年から)。
正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。
略称は労働施策総合推進法、さらに労推法と略されることもあります。
これは国として初めて、パワハラの定義を明らかにし、使用者に対して、その防止のための措置を義務付けた法律です。
企業は、(1)パワハラ防止という方針を明確化し、労働者への周知・啓発し、(2)相談窓口を設置するなど相談体制を整備し、(3)相談に対する迅速かつ適切な対応をする義務があります。
但し、直接的な罰則の適用はありません。
違反があれば、助言、指導または勧告の対象となり、従わないときには企業名が公表されるというペナルティが準備されています。
厚労省はパワハラの防止に関する指針(ガイドライン)を公表しています。かなり具体的なもので、例えば、パワハラを行った場合、「懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化」するように求めています。
パワハラの相談を受けた時の会社の対応
パワハラ被害者から、もしくは、パワハラがあると知った従業員から、相談を受けた会社として、どのような対応を取る必要があるでしょうか。
パワハラ防止法とそのガイドラインは、相談にどう対応するかを会社ごとに定めておく必要があるとしています。
相談窓口が相談を受けたときに、まず必要なこととして、事実確認をする、ということがあります。
そのための体制は各社で様々に定めることになるでしょうが、使用者としては、客観的に何が起こったかをできる限り把握する必要があります。
誰がどのように聞きとりをするか、ということについて定める必要があるでしょう。
次に、確認された事実に基づき、どのような処分・処遇をするかを定め、それを被処分者や被害者に伝える、という対応が必要です。
合理的な判断がなされるような体制づくり、手続を考える必要があります。
パワハラで訴えられたらどうする?
パワハラが発生し、被害者から会社や加害者が訴えられる可能性があります。
被害者が訴えるケースでは、加害者だけを訴えることもあれば、会社だけ、あるいは加害者と会社を同時に訴える、といった可能性があります。
そして、どのような形にしても、訴訟では事実確認が重要なポイントを占めるため、訴訟提起される前に会社側で事実がある程度確定できている必要があります。
訴訟対応について相談された弁護士には、代理人として就任する前に事案の詳細を確認し、事件としての見通しを立てる責任があります。
企業としては、その見通しを参考に、どのように訴訟を進めるかという方針を立てることになります。
会社側としては、訴えられた際に早めに弁護士にも相談できる体制を整えておく必要があります。
パワーハラスメントを予防するための施策とは?
パワハラを防止するために使用者はパワハラが禁止であることを会社の中の規律として定め、そのことを啓発・周知する責任があります。
但し、単にパワハラ防止指針を定め、それを従業員に把握させたら十分かというと、そうではありません。
最低限、定期的に社内でパワハラ防止に関する研修を行う必要はあります。というのも、日ごろのコミュニケーションの仕方は、そんなに簡単に変わるものではないからです。
そこで、コミュニケーション方法に関する研修を行う、というのも一つの施策として有効です。従業員一人一人が自分の言動に問題がないかどうか、問題があるとしたら、どのように変えたらよいか、といったことをケーススタディを通じて学ぶ機会を与えるなど、企業の実情に適した形で施策を考えていくことが重要です。
パワハラトラブル解決のために弁護士ができること
パワハラのトラブルが起こったとき、弁護士としての関わり方は二つ、被害者側での対応と使用者側での対応です。
解決のために使用者側に就いた場合、事実確認を改めて行い、見通しについて使用者側と協議します。
また、トラブルとなったステージ(交渉段階、労働審判、訴訟)によっても、どのような見通しになるかは異なります。
ただ、いずれにせよ、被害者側の請求に問題があって、使用者側の立場で争っていく必要があるのかどうか。
あるいは、使用者側が争う余地があるとしても、早期解決のために譲歩をするかどうか、譲歩するとしてどの程度の譲歩をするのか(必ずしも、金銭解決だけではありません。)。
そのような判断のために補充的に調査が必要であれば調査をしますし、更に再発防止のためにするべきことがあれば、その点も指摘することがあります。
企業側でパワハラに直面することで、体制としての課題を振り返り、改善を図る機会ともなります。このことを弁護士も意識して取り組むことが重要と考えています。
パワハラに関する訴えや請求があったときは、使用者側でパワハラ問題に対応した経験が豊富な弁護士に相談するべきです。当事務所は、福岡天神に事務所を構えて、長年、企業側での労務相談や訴訟対応を経験し、争うことも、早期解決も、使用者側のスタンスに寄り添った解決を優先しています。お気軽にご相談ください。
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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。
※日本全国からのご相談に対応しております。