当事務所では、多数の相続案件、遺産分割協議、遺言書作成、遺留分侵害額請求事件等を取り扱ってきています。
ご承知のとおり、民法の中の相続法の分野については、2018年7月6日に改正法が成立し、その後、順次施行されています。
ここでは、その概要として、注目すべきポイントだけに絞って解説します。
配偶者居住権の保護
従来、夫婦で住んでいた不動産が唯一の資産であるようなケースでは、子どもへの相続分とは別に配偶者に十分な財産を残すことが困難で、高齢化した配偶者にとって、他方配偶者が亡くなった後の生活の保障が十分に図られる方法が問題となることがありました。
そこで、配偶者は、これまでに居住していた建物を無償で使用できる権利として、配偶者居住権を取得することができるようになりました。
居住できるのが一定の期間に限り認められる「配偶者短期居住権」は、配偶者が当然に、少なくとも相続開始の日から6か月間にわたって主張できる権利です。これに加えて、遺産分割協議や遺言などにより、配偶者は、終身の無償での居住権も取得することができます。これまでの判例でも一定の場合に無償での使用権限が認められていましたが、改正法では、その権利の要件や内容などについて明確な規定として定められたものです。
これにより、生存配偶者の居住する利益を守るという要請に答えつつ、子ども世代への不動産の単独相続を実現することができます。この居住権の制度は、税制面でも整備され、利用しやすいようになっています。
自筆証書遺言の方式の緩和
次に、自筆証書遺言の一部である相続財産の目録をPCで作成したり、他人が代筆したり、預金通帳等のコピーを添付したりすることも認められることになったという点です。ただし、目録部分も、その全てのページに、署名と押印は必要です。
このことで、細かい財産目録まで自分で書かなければならないといった心理的なハードルがなくなり、制度として利用しやすくなったと考えられます。
遺言書保管制度の新設
一定の様式で作成した自筆証書遺言(無封)については、遺言者本人が法務局の遺言書保管所に赴いて申請すると、遺言書を保管してくれる手続が新設されました。遺言者が死亡した後であれば、誰でも、そういった形での遺言書保管があるかどうかを確認することもできます。
なお、この手続が利用された場合、遺言の検認が不要になります。
遺留分減殺請求は、遺留分侵害額請求になった
従来、遺留分を侵害されたことを主張する者は、遺留分減殺請求という形で行使され、その効果は原則として遺贈等の効力が一部失われる、つまり現物の返還をしろ、と言える権利とされていました。しかし、これでは使い勝手が悪かったため、今回、遺留分侵害額の請求という金銭請求に一本化されました。
この計算方法についても、相続人に対する贈与のうち、相続開始前10年間に行われた特別受益は遺留分の算定基礎に合算されることなどが明確に定められました。
相続財産中の預貯金口座からの払い出しについて
これまでは、被相続人が亡くなったことの連絡が銀行にいくと、口座が凍結されてしまう、ということになっていました。
しかし、改正後は各人相続分の3分の1まで、上限150万円までは、相続人の一人が単独で請求して、分割協議前に払い出しを受けられることになりました。
これらの改正の多くは、遺産分割が、より穏便に進むような改正と捉えることができます。これ以外にも細かい改正があり、今後、実際に相続が開始した場合には、改正法の解釈などを巡って紛争が起こるかもしれません。
2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。
※日本全国からのご相談に対応しております。