1. 法務体制構築の必要性
ベンチャー企業(スタートアップ)は、成長のスピードが速く、外部環境の変化に迅速に対応する必要があります。
そのため、事業活動を安定的に進めるために法務体制を整備することが重要です。特に契約関係の適正化、リスク管理、コンプライアンスの徹底は、企業の存続や成長に直結する課題です。
一方で、スタートアップは大企業に比べてリソース(コストや労力)が限られるため、必要最低限かつ効果的な法務体制を構築することが求められます。
以下、整備すべき「最低限」「効果的」な法務体制について解説します。
2. 必須の法務体制の要素
契約書管理の徹底
契約書はビジネスの基盤となる重要な書類です。
自社の契約書雛形を早期に策定し、それを活用することで、自社に不利な契約を締結するリスクを回避することができます。これにより、契約条件の標準化が図られ、交渉の効率化にも繋がります。
また、契約書はビジネスの基盤となる重要な書類です。契約内容を適切に管理し、リスクを事前に把握することで、予期せぬトラブルを回避できます。例えば、顧客や取引先との契約においては、重要条項(契約期間、支払い条件、秘密保持義務など)を明確にし、スタートアップの立場を守る条項を盛り込む必要があります。
ただ、契約書の細かい条項まで経営者や営業担当者などが確認していくことは現実的ではなく、外部の法務専門家や弁護士を活用することが必要です。
請求書や契約書の電子化対応
近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れを受け、かつ電子帳簿保存法を踏まえて、請求書や契約書を電子化することが重要です。
電子契約サービスを導入することで、コスト削減や契約処理の効率化が図れるだけでなく、ペーパーレス化により環境負荷も軽減できます。
さらに、電子契約は保存性や改ざん防止の観点からも優れています。
社内規程の整備
社内規程は最低限で構いませんが、スタートアップが目指す成長計画に応じて拡張性を考慮して作成することが望まれます。
特に、3年後や5年後の企業規模や業務内容を見据えた規程を先取りして整備することで、将来的な改定の手間を減らし、成長に伴う課題に柔軟に対応できます。例えば、後述する労働時間管理や情報セキュリティに関する基本規程を整えることで、企業全体の統制力を向上させることが可能です。
ビジネスモデルの法令チェック
スタートアップが時代を先取りしたビジネスモデルを構築しようとする場合、そのビジネスが現行の法令や規制に抵触していないかを十分にチェックする必要があります。特に、新しい分野や技術を活用する事業では、明確な法的枠組みが存在しない場合もあるため、専門家の意見を参考にリスクを洗い出し、必要に応じて規制当局と協議することが重要です。
3. リスク管理とコンプライアンス
スタートアップは、事業拡大を優先するあまりリスク管理が後回しになることがあります。
しかし、適切なコンプライアンス体制が欠如すると、不測の事態で致命的なダメージを受ける可能性があります。
特に、以下のポイントを押さえることが重要です。
知的財産権の管理
スタートアップでは、自社が販売する製品やサービスにブランド価値を付与することが成功のカギを握ります。
そのために特許権・商標権・著作権などの知的財産権の適切な保護は必須ですので、出願や登録手続きを早期に行い、ライセンスを適切に管理する体制を構築しましょう。
労務管理
急速な人員拡大に伴う労務リスクを回避するため、労働基準法をはじめとした労務関連法規を遵守した体制を構築する必要があります。
特に、残業時間の管理やハラスメント防止は、成長局面で思わぬ落とし穴となり得るため、採用を始める前から整備しておく必要があります。
データ保護とプライバシー
デジタル化が進む中、個人情報保護や情報セキュリティの確保は必須です。
特に顧客データを扱う場合には、GDPRや日本の個人情報保護法への対応が求められます。ウェブサイトを構築する際は、最低でもプライバシーポリシーを掲載しなければなりません。
4. 専門家の活用と法務体制の内製化
スタートアップはリソースが限られているため、初期段階では法務業務を外部の専門家に依頼するのが一般的です。しかし、成長段階に応じて内製化を進めることも検討すべきです。例えば、以下の段階的なアプローチが考えられます。
初期段階 顧問弁護士と契約、または適時に法律事務所を活用する
成長段階 法務担当者を採用、契約書レビューや法務相談を徐々に内製化
上場準備 法務部門を設置し、自社領域に専門性を高めた体制を構築
上場後 自社法務部門のほか、専門領域ごとに顧問弁護士を配置、外部相談窓口を法律事務所とする
このように段階的に法務体制を整備することで、リソースを有効活用しながら効率的な運営が可能となります。
5. 成長を見据えた法務体制の進化
スタートアップが成長を続けるためには、3年後や5年後の姿を思い描き、それに対応する法務体制を先取りして構築することが必要です。
例えば、グローバル展開を視野に入れる場合には、海外法規制への対応を想定した契約書や社内規程の整備が求められます。
また、IPOを目指す場合には、ガバナンス体制や内部統制の強化が不可欠です。
これらの動きをするために、そのような成長に併せて対応することができる人材との関係構築も必要となります。
まとめ
スタートアップにおける法務体制の構築は、短期的なリスク管理だけでなく、中長期的な成長戦略に直結する重要な課題です。
契約書や請求書の電子化対応、社内規程の先取り整備、リスク管理とコンプライアンスの徹底を通じて、事業活動の安定性を確保しつつ、成長に対応できる柔軟な体制を構築しましょう。そのためには、企業法務に精通し、様々なトラブルにも対応ができる外部弁護士と連携し、体制構築のために力を借りることが必須です。
適切な法務体制を整えることで、スタートアップの成長をより確実なものにすることが可能です。
2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。
※日本全国からのご相談に対応しております。