配転とは
配転とは従業員の配置の変更で、職務内容や勤務場所が長期に渡って変更されるものを言います。勤務先が変わらず、部署が変わる「配置転換」と、勤務先を変更する「転勤」を含む用語です。
使用者の配転命令権は、人事権の一内容として認められるもので、就業規則にも「業務の都合により、出張、配置転換、転勤を命じることがある」などと定められることが一般的です。
職種限定・勤務地限定契約とは
職種限定契約とは、例えば、医師、看護師などの特殊技能・資格を有することを前提とした採用が行われた場合など、その職種に限定した雇用契約のことを言い、その場合、使用者には、職種を変更する配転命令権がそもそも認められないことになります。
最高裁第二小法廷令和6年4月26日判決(社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件)では、福祉用具の改造・製作を行う技術者として採用された労働者に対して、総務課施設管理担当に配転するという配転命令権の行使について、その配転を、法人の福祉用具改造・製作業務が廃止されることに伴う当該労働者の解雇回避のためという点から一審・二審が有効としたのに対し、長期間に渡り、法人において唯一の技術者として雇用されてきたという経緯から、黙示の職種限定合意があったと認定し、結論として配置転換を命じる権限をそもそも有しないとしました。
また、勤務地限定かどうかは、通常、慣行に照らして定まることが多いと思われます。例えば、工場を複数保有する会社において、現地採用した工員を別の工場に転勤させることは、転勤させることが慣行となっていないのであれば、本人の同意の下でのみ許されるものと思われます。
あるいは、採用時点で、転勤を予定する社員コースと、転勤なしの社員コースに分けている会社もあり、いずれにせよ、転勤に関する慣行が明確でない場合には、本人の同意を得て転勤を命じるべきということになると思われます。
このような意味で、配転命令権は雇用契約によって一定の制限を受けていると言えます。
配転命令権が認められるとき
これに対し、配転命令権があると認められる場合には、労働者の同意なく、一方的に配転を命じることができるのが原則です。
もっとも、配転命令の多くは、労働者にとって、それまでと異なる業務に従事することを余儀なくされたり、知らない土地での生活を余儀なくされるなど、その受ける不利益は非常に大きい場合もあります。
そこで、労働者との契約関係において配転命令があると考えられる場合であっても、一定の場合には配転命令権の行使が権利濫用として無効になる可能性があります。
例えば、労働者を退職に導く意図でなされた配転命令や、会社批判の中心人物に対する転勤命令など、不当な動機・目的をもってなされた場合などは、権利濫用とされる傾向にあります。
不当な動機・目的によるものでなくとも、業務上の必要性や、当該労働者が被る不利益を考慮して相当性があるか、といったことを考慮して、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるもの」であるときは、やはり権利濫用とされることになります。
配転命令権の行使が許される場合、許されない場合
配転命令権の行使として許された事例としては、共働き家庭の女性労働者が転勤により通勤時間が長時間となるため、育児に支障が生じる事例(最判H12.1.28ーケンウッド事件)、同居中の母親や保母をしている妻を残して単身赴任を余儀なくされることとなる転勤の事例(最判S61.7.14-東亜ペイント事件)などがあります。
一方、当該労働者自身がメニエール病にり患しており、転勤先への通勤には1時間40分以上かかるという事例や、要介護状態にある老親や転居困難な病気の家族を抱える事案においては、転勤により「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるもの」として、転勤の命令は権利濫用とされています。
以上のように、配転命令を行う際には、そもそも職種限定契約・勤務地限定契約に該当しないか否か、該当しないとしても、権利濫用として許されないケースに当たらないかを、当該労働者が受けるであろう不利益にフォーカスして慎重に検討する必要があるということになります。
出向とは
出向は、「従業員が雇用先企業に在籍したまま、他の企業の従業員となって、相当長期間にわたって当該企業の業務に従事すること」を言います。
後述する転籍との違いは、元々の会社との雇用契約が存続したままであるという点です。出向者は、元の企業との関係では「休職」となることもあります。
そして、出向者は出向先の企業の指揮命令に服することなります。
出向命令権があるか
会社が従業員に出向を命じるには、原則として、労働者の同意が必要で、一方的な命令権は認められません。
ただし、事前に労働者の包括的な同意があるものとみなされるケースでは、出向命令の権限が認められます。
出向先での労働条件が明確であり、出向命令権の濫用に該当しない事案として、就業規則上の出向条項に加え、社外勤務協定において、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、手当等の処遇について詳細な規定が定められている、という事案において、出向命令時に労働者の個別の同意を得る必要はない判断されています(最判平15.4.18ー新日本製織事件)。
転籍とは
転籍は、「雇用先企業との雇用契約を合意解約して、転籍先企業と新たな雇用契約を締結すること、または雇用先企業との雇用契約上の地位を転籍先企業に譲渡すること」をいいます。
転籍には労働者の同意が必要とされます。
この同意について、事前の包括的同意で足りるかという疑問がありますが、転籍が、本人にとって、職務内容、待遇などの労働条件を大きく変化させることを考えると、その個別的同意も必要と考えるべきです。
但し、裁判例には、採用の際に転籍について説明を受けた上で明確に同意があり、人事体制に組み込まれて永年実施され、「実質的に社内配転と異ならない状態」となっている転籍に関しては、就業規則を根拠にこれを命じうるとしたものがあります。
2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。
※日本全国からのご相談に対応しております。