社員の経歴詐称が発覚したら、解雇ができるか?

経歴詐称とは

問題となる「経歴詐称」とは、履歴書や採用面接に際して、学歴、職歴、犯罪歴等の経歴を偽ったり、真実の経歴を秘匿することを言います。

会社は、採用の決定に当たり、求職者自らが申告した経歴に見合った仕事の能力や知識、経験等を備えていることを前提にしています。そのような前提が詐称によるもので、そのことを知っていたとすれば雇用契約を交わすことはなかった、という場合、企業とその従業員との間の信頼関係は破壊された状態となります。ただ、経歴詐称にも、重要なものとそうでないものがあります。重要な経歴についての詐称であれば、現実に会社の業務に支障を生じる可能性があります。そのため、会社側が従業員の経歴詐称に気が付いた場合には、解雇を検討することも珍しくありません。

そこで、経歴詐称を理由とした解雇ができるかどうか(試用期間中であれば、本採用拒否ができるか)、ということについて、以下、解説します。

なお、解雇の種類についてはこちらを参照してください。

経歴詐称による解雇が有効か否かを判断した裁判例

裁判例において経歴詐称が懲戒解雇事由として主張される場合、就業規則上の定めとしては「重要な経歴を偽り採用されたとき」といった事由に該当するかどうか、という観点で解雇の有効性が判断されます。以下、実際の裁判例について見てみます。

1 労働者が、雇用契約締結に際し、過去の服役の事実を秘し、またアメリカで経営コンサルタント業務に従事していたと虚偽の申告をした事例において、使用者側が、その経歴も重視して労働力を評価し、雇用契約を締結したことが認められ、雇用契約締結に先立ち、過去に労働者が逮捕・勾留されて実刑判決を受け、服役していたという真実が告知されていたとすれば、使用者側は、その事実に基づいてその労働力や信用性を評価し、企業秩序に対する影響等を考慮して本件雇用契約を締結しなかったであろうと認められ、かつ、客観的に見てもそのように認めるのが相当であるといえる、として、懲戒解雇を有効であると判断しました(東京地裁平成22年11月10日判決)。

2 最終学歴を偽り、かつ、雇用契約締結の当時、公判係属中であるということを秘していたことが採用後に発覚した事案において、裁判所は、「雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うというべき」とし、「最終学歴は、・・・単に控訴人の労働力評価に関わるだけではなく、被控訴会社の企業秩序の維持にも関係する事項であることは明らかであるから、控訴人は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる」「(公判係属中であった事件について)刑は執行が猶予されているものの、その理由とされた犯罪行為は、社会的に強く非難されるべき行為であって、それだけ被告会社の社会的信用を害し、他の従業員に悪い影響を及ぼすおそれのあるものであったのであるから、原告の被告会社における職務内容や地位を考慮にいれても、なお本件解雇が解雇権の濫用に当たるとするだけの事情を認めるに足りる証拠はない」として、必ずしも労働力の評価に影響しない経歴詐称であっても、解雇事由とすることを肯定しました(最判平成3年9月19日(原審東京高裁平成3年2月20日、東京地裁平成2年2月27日))。

3 一方、労働能力の評価に関わる経歴詐称が問題となったケースとしては、労働者が、JAVA言語のプログラミング能力がほとんどなかったにもかかわらず、その経歴書にJAVA言語のプログラミング能力があるかのような記載をし、採用時の面接でもそのような説明をしていたという事案で、労働者が、会社の業務として行われている開発に必要なJAVA言語のプログラマーとして採用された以上、「重要な経歴を偽り採用された」というべきとして、解雇が認められた事案があります(東京地判平成16年12月17日(労働判例889号52頁))。

経歴詐称の防止策

経歴詐称をした者の採用を防止するためには、採用に際し、履歴書や職務経歴書に加えて、前職の退職証明書を提出させることが有用です。

退職証明書には、前職における使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について、前職の使用者が証明する文書で、退職した労働者からの請求があれば、使用者はこれを交付する義務を負います(労働基準法22条1項)。
採用選考時の提出書類として、前職の退職証明書を加えることで、前職に関わる経歴詐称が行われることを防止することができます。
仮に退職証明書の提出を拒まれた場合には、採用を控えるべき状況を疑うことになります。

経歴詐称が発覚した場合の対処法

経歴詐称と言っても軽重があり、具体的にどのような虚偽の申告があったかということが、対処を考える上で重要です。

一方で、採用段階での対策としては、会社として労働者にどのような能力を求めるかを明示すること(もちろん、実際に業務において必要とされる能力であるべきです。)や、どのような経歴を記載する必要があるかを明確にし、そのような経歴に関連した質問を行うなど、経歴が採用の可否判断に考慮されたことを明らかにしておくべきです。
使用者側が労働者を採用するに際し、その経歴を踏まえて当該労働者に信頼を寄せたことを明らかにすることで、経歴詐称が仮に能力と無関係であっても、使用者と当該労働者との間の信頼関係に重大な支障をもたらすということを当該労働者にも認識させることができます。

具体的な事案は専門家に相談を

以上のとおり、経歴詐称が発覚した場合に解雇が認められるかどうかという問題は、個別のケースで判断のポイントが異なります。必ずしも解雇だけが選択肢ではなく、配置転換や賃金減額など、他にも対応の仕方は考えられます。企業秩序の維持という観点からは、解雇などの対処を必要とするでしょうが、労働法制上のリスクを踏まえずに対応した場合、企業にとっては更に不利益が拡大するリスクがあるため、多角的な観点からの慎重な検討が必要となります。

そこで、対応の検討に際しては、労働問題に強い弁護士などの専門家の支援を受けることを強くお勧めします。再発防止策も含めた対策も必要となると思われるため、当事務所がご相談を受けたときは、企業様に継続的な支援をさせていただくための顧問契約の締結についてもお勧めしています。顧問契約についてはこちらをご参照ください。

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

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