従業員に対する損害賠償請求事例【福岡で企業法務に強い顧問弁護士】

従業員に対する損害賠償請求の相談事例

ある建設会社からの相談で、従業員がその担当する工事の現場責任者を務めていたところ、工事が進むにつれ、施主からクレームが寄せられるようになり、調査したところ、多くの瑕疵が認められ、その原因が、その従業員が十分に下請業者とも打合せをしていなかったなど、管理が不十分であったことにあることが判明しました。瑕疵を補修するためにかかった追加の費用を従業員に請求したいのですが、請求は認められるでしょうか。

原則的な考え方

従業員は、会社との間の雇用契約に沿って業務を遂行する債務を負っているため、適切な業務遂行がなされずに会社に損害を発生させてしまった場合には、原則として、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負うことになります。

但し、裁判例においては、従業員の損害賠償責任が発生するかどうか、発生するとして、賠償すべき金額はいくらかという問題に関して、これを制限する傾向にあります。

その基準として、最高裁の判例は「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」としています(最判昭51.7.8)。

その後の具体的な裁判例ではどのように考慮されているのかを紹介します。

大隅鉄工所事件(名古屋地判昭和62年7月27日)

工作機械等の製造販売を業とする会社において、従業員がプレナー(長さ5メートルの電動カンナ)での作業中に居眠りをしてこれを損壊したことに対し、損害賠償請求が一部認められた事例

裁判所の判断要旨

・従業員がプレナーでの作業中に、禁止されているにもかかわらず、イスに座って喫煙し、7分以上も居眠りした。この作業中の居眠り事故が頻発しているといった事情はなく、従業員が自ら居眠りをしやすい状況を作り出した結果であり、重大な過失が認められる。

・会社内において日常の労働過程における労働者の過失による物損事故について、これまで損害賠償の請求を受けた者はいなかったが、それは、それぞれ事故の態様や、事故を起こした従業員の日頃の勤務状況や、反省の態度などを考慮して、損害賠償の請求を差し控えたもので、物損事故について従業員に対し損害賠償をしない慣行があり、それに従ったというわけではない。

・就業規則には、従業員に対する損害賠償請求について記載がなく、単純な物損事故があったときに従業員が懲戒処分を受けたり、解雇されたといった場合には、原則として損害賠償請求まではしないという共通認識があったと言え、従業員としても損害賠償請求までされることはないと期待していたと言えなくはないが、これは本件損害賠償額を定めるに当たって考慮されるべき事由にとどまる。

・会社と従業員それぞれの経済力、賠償の負担能力についての較差状況(従業員の給与額と会社の利益額を比較)、会社が機械保険に加入するなどの損害軽減措置を講じていないこと、これに本件事故が深夜勤務中の事故であったことなども考慮すると、損害賠償額を4分の1程度とするのが相当である。

 

株式会社G事件(東京地判平成15年12月12日)

中古自動車の販売等を業とする会社において、販売店の店長職であった従業員が、元従業員より欺罔され、代金の支払を受けないまま商品である車両を引き渡し、うち15台分(売掛金5156万7600円相当)の回収が不能になったことについて、従業員に対して同額の損害賠償を請求した事件

裁判所の判断要旨

・従業員は、客に車両を販売する際には代金全額が入金されてから納車するという会社における小売りの基本ルールを知りながら、これに反して入金がないまま短期間のうちに次々と商品である車両を多数引き渡し、車両15台の価格相当の損害を生じさせたことについて、店長として職務を遂行するに当たり重大な過失があったことは明らかである。

・回収不能となったのは、売上実績を上げたいという心情を元従業員(詐取を企図した者)に利用された結果であって、直接個人的利益を得ることを意図したものでなかったこと、従業員は、店長就任後、その店舗の販売実績を向上させたこと、ブロックマネージャーから各店長には「とにかく数字を上げろ。手段を選ぶな。」等と目標達成のため、売上至上主義ともいうべき指導を行っていたことや、この店舗では他の直営店が仕入れたものの買い手がつかない在庫車両の販売もノルマとなっていたことなどの事情を考慮すると、損害賠償額は2分の1が相当である。

特定郵便局局長事件(福岡地判平成20年2月26日)

特定郵便局の局長であった従業員が、内国郵便約款(郵便規則)において定められている割引制度に反する高い割引率を適用して算出した低料金で郵便利用をさせたことによって、株式会社(民営化前の日本郵政公社)に損害を与えたとして、公社が同局長に対し、債務不履行ないし不法行為に基づき損害賠償請求として6億7000万円余りを請求した。

裁判所の判断要旨

・本件割引行為は債務不履行に該当し、自らが設定した割引率等が内国郵便約款に違反することについて認識していたことから、同局長には少なくとも重大な過失が認められる。

・同局長の勤務態度は誠実で、割引行為も郵便局としての取引量を増加させたいとの目的であり、自己又は会社以外の第三者の経済的利益を図る目的や、積極的に会社に害悪を与えようとしたり、職務を懈怠したりしたものではない、度を超えた営業努力の結果ともいい得るもので、行為態様が悪質とはいえない。

・割引行為の動機は、公社が課した部会ごとのノルマ、事実上達成することを求められていた郵便局単局でのノルマを達成したいということにあり、公社としても違法な割引行為に気づく機会はあったのに、約2年間にわたりこれに気付かず、損害拡大を防げなかった。

・信義則上、同局長の賠償すべき金額は、損害額の概ね10分の1相当である5000万円とするのが相当である。

まとめ

以上のように、会社の従業員に対する損害賠償請求に際しては、

①債務不履行等について、従業員の故意または重大な過失が認められることに加えて、

②その請求が、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められることが必要、ということになります。

冒頭の事案についても、①まずは、管理責任を果たさなかったことが、重大な過失といえるレベルのものかどうか、を検討し、それが肯定される場合、②損害の公平な分担という見地から、損害賠償額が制限されることになるかどうか、ということが検討されることになります。

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顧問弁護士に関する具体的な役割や必要性、相場などの費用については、以下の記事をご参照ください。

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
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