1 社員に始末書の提出を命令することはできる?
会社は、就業規則で服務規律を定めるなどして、労働者が守るべきルールを決めています。日常的な注意や指導をしていてもルールを守らない労働者がいる場合など、使用者には、企業秩序を維持するために、就業規則に定めた「懲戒処分」をする権限が認められています。
懲戒処分には、けん責・戒告、減給、降格、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇といった種類があります。この中で「けん責」は、始末書を提出させて将来を戒めること、を言います。
一方で「戒告」は、将来を戒めるものではあっても、始末書の提出を伴わない処分とされます。
但し、各会社によって、その用語の定義は様々であるため、会社によっては、「戒告」であっても始末書の提出を命じることもあり得ます。
基本的に、始末書の提出をペナルティとして命令することは懲戒権に基づくものとして許され、就業規則の根拠があるときに命じることができるものと考えられます。
一方、就業規則の定めがなく、雇用契約書等にも懲戒処分についての定めがない場合には、少なくとも懲戒処分としての始末書提出を命じる根拠は見当たらないということになります。
2 始末書の提出を強制できるか
では、けん責処分を受けた従業員が始末書を提出しない場合、使用者が提出を強制する手段はあるでしょうか。
例えば、始末書の不提出を理由として、更に懲戒処分をできるか(更に懲戒処分が行われるのであれば、その不利益を回避するため、事実上、従業員は始末書の提出を強制されるということになります。)という問題です。
これについて裁判例は、「職務上の指示命令に従わない」という理由で更に懲戒処分ができるとするものと、始末書提出はあくまで労働者が任意に行うべきもので、その提出を懲戒処分により強制することはできないとするものがあります。
前者の立場は、実質的に一つの非違行為により複数回の懲戒処分を許すことにもつながりかねないことからすれば、基本的には後者、つまり、始末書不提出に対する懲戒処分はできない、という考え方が妥当と思われます。
始末書不提出に対する再度の懲戒処分が許されないとする裁判例(高松高裁昭和46年2月25日)は、「個人の意思の自由は最大限に尊重せられるべきであり、始末書の提出の強制は右の法理念に反する」としています。
3 始末書を提出しなかった社員の処遇をどう考えるか
始末書提出を強制できないとしても、その事実は、その後の人事考課や昇給・昇進などの判断に際し、裁量の範囲内で考慮することができます。
つまり、使用者としては、始末書が提出されなかったことを(実質的に)考慮して、労働者の処遇を厳しく考えることができ、労働者においても、そのような事態になることを予期することになります。
4 懲戒処分の検討に際しては専門家に相談を
企業秩序の維持という目的のため、と言っても、労働法上、取り得る手段には制約があります。その点を十分に理解しないままに懲戒処分を行うことは、問題の根本的な解決にならないばかりか、徒に紛争を招く可能性があるため、特に紛争予防に長けた弁護士などの専門家のアドバイスの下で行う必要があります。
当事務所は使用者側の立場に寄り添って、適切な人事管理・労務が運営できるよう、紛争対応の経験も踏まえたアドバイスを行っております。お気軽にご相談ください。
2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。
※日本全国からのご相談に対応しております。