従業員に対する退職勧奨を拒絶された場合にどうするか?【福岡で企業法務に強い顧問弁護士】

退職勧奨とは何か

退職勧奨とは、使用者である会社側によって従業員に自主的な退職を勧める行為ですが、雇用契約の合意解約の申込みと捉えるべき場合もあります。
いずれにしても、従業員に自主退職の意思決定を求めるのが退職勧奨ですが、これは労働関係法で規制されるものではなく、使用者側が退職勧奨を行うことは、基本的には自由です。つまり、退職勧奨を行う理由が何であるかは原則として問われず、従業員の自主的な判断を促すものである以上、問題にはなりません。
現実には、例えば、業績悪化に伴い、コスト削減のための人員整理を行う場合の整理解雇に先立ち、解雇回避努力の一つとして退職勧奨が行われることが要請される場面があります。
あるいは、対象の従業員の能力不足や問題行動等が理由となって退職勧奨がなされる場合も散見されます。
いずれにせよ、退職勧奨の結果、従業員が自由な意思決定に基づいて退職を決めたものである限り、雇用契約は終了することになります。

辞めないと明言されてしまったらどうする?

では、退職勧奨を受けた従業員から、辞めるつもりはないと退職を明確に拒絶された場合にはどうすれば良いでしょうか。それ以上の退職勧奨を行ってしまうと、自主的な意思決定での退職と言えなくなってしまうから、退職勧奨を繰り返すのはやめておいた方がいいのでしょうか。

一般的に、一度の退職勧奨に従業員が応じなかった場合に、その後、2度、3度と退職勧奨を繰り返したからといって、直ちにその後の退職が自発的なものでなくなってしまう、というわけではありません。

とはいえ、退職勧奨の回数や期間によっては、従業員に対する説得が社会通念上の相当性を逸脱した違法なものと評価され、不法行為とされて使用者が損害賠償責任を負うことになる可能性があります。

【裁判例】日本アイ・ビー・エム事件(東京高裁平成24年10月31日判決)

退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思決定を促す行為として許容される限度を逸脱し、自由な意思決定を困難にするものであった場合には、当該退職勧奨は違法性を有し、使用者は、不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
退職勧奨が合理的な目的を欠く場合や、対象者を恣意的に選定して行われた場合には、そのことを労働者が知っていたという例外的な場合でない限り、退職勧奨行為が自由な意思決定を阻害したと考えられる。

退職勧奨による退職が取り消されたり無効になる場合がある?

退職勧奨が執拗になされるなどした結果として退職に至った場合に、使用者の損害賠償責任の問題だけでなく、後日、退職の申入れ自体の効果が否定されることはあるでしょうか。
これは民法上の意思表示の瑕疵(心裡留保、錯誤、詐欺・強迫)に関する問題です。

形式的に退職願いを出したものの、それが不満や反省を示すものに過ぎず、現実には退職の意思がなかった場合で、その真意を使用者も知っていた、という場合には、心裡留保(民法93条但書)の適用により退職の意思表示が無効とされます(昭和女子大学事件・東京地裁平成4年2月6日判決)。

また、従業員の過去の行為について、解雇事由・懲戒事由に該当しないにもかかわらず、該当するものと誤信し、解雇、懲戒解雇を避けるために退職の申入れをした、というケースで、錯誤無効(※現行の改正民法では錯誤取消となる。)が認められた事案があります(富士ゼロックス事件・東京地裁平成23年3月30日判決)。この場合、使用者の欺罔行為があれば、詐欺取消しの主張も認められることになります。

更に使用者や第三者が、実際にはそうでないにもかかわらず、懲戒解雇もあり得るなどと告げて従業員を畏怖させて退職の意思表示をさせた、という場合には、違法な「害悪の告知」として強迫によるものと評価され、取消しが認められると考えられます(ソニー事件・東京地裁平成14年4月9日判決)。

トラブルにならない退職勧奨を行うためには

上記のように、後から損害賠償や無効・取消といったトラブルを招かないように退職勧奨を行うためには、使用者側で正しく戦略を練って退職勧奨を進めることが必要です。

往々にして、問題社員に対する退職勧奨を行う使用者は、問題行動や非違行為などを強調して退職を迫ろうとする傾向がありますが、そういった事情は、使用者が退職勧奨を行う動機ではあっても、従業員にとって退職を決断する理由になるかというと疑問です。
自主的な退職の意思表示、あるいは退職合意という形で、従業員側が退職を決断することは、その後の従業員自身の生活設計や再就職などを考えると、それなりの理由が必要です。

退職を決断するために必要なプロセスとは何か、という問題は、その会社の業種や規模、従業員の性格・能力・キャリアなどと無縁ではないため、個別に考える必要がありますが、従業員の意見にも耳を傾けながら、どのような認識を共有できれば、あるいはどのような条件が満たされれば、「退職もやむなし」という結論に至るのかを考える必要があります。

退職勧奨を行うときは専門家に相談を

使用者として従業員に退職勧奨を行うときは、事前に専門家に相談することが法的トラブル回避に不可欠です。福岡・天神で事務所を構え、退職勧奨について支援をしてきた経験が豊富な当法律事務所にご相談いただければ、ご事情を踏まえた具体的・戦略的なアドバイスを提供することができます。

是非お気軽にお問合せ下さい。

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

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